米田透 俳句集(2000年)


響焔2000年1月号(No.379)

白灯集(巻頭)

秋暑しハイテクノロジー料金所
なすべきを淡々とやり赤とんぼ
秋深むマーボ豆腐を辛くして
モンテナポレオーネ通りそぞろ寒
秋の川チーズのために赤ワイン


響焔2000年2月号(No.380)

白灯集

降り注ぐ銀杏もみじの下をゆく
スペイン風魚のスープ秋深む
散る落葉ニューカレドニアの話聞き
郵便を配る黒人冬の風
あかあかとキムチラーメン冬の雨


響焔2000年3月号(No.381)

白灯集巻頭作家・特別作品

マロングラッセ  米田 透

テーブルにイタリアリラ貨夜長かな
厚く切るフルーツケーキ秋深む
栗の実のマロングラッセとなる不思議
紅葉が進み行く街消防車
ロワールの林檎のタルト「小」を買い
目の青い子供が遊びもみじ道
街角に黄色いポスト冬来る
石畳に大きな落葉パリの鐘
雪催いオルレアン日本映画祭
具沢山の味噌汁作り霜の夜


白灯集

クスクスという名の料理冬うらら
方向を少しずつ決め冬木立
ブルゴーニュワインの香り冬館
研修生笑顔で去りて十二月
傘をさす人ささぬ人冬の巴里


響焔2000年4月号(No.382)

白灯集

病院に戻り行く友三日かな
冬晴やワイン蔵付きレストラン
濃紺の自分の時間日脚伸ぶ
イギリスとドイツから客雪催い


響焔2000年5月号(No.383)

白灯集

春近くむらさきいろの地平線
若者の前途考え寒の星
暁のさえずりのなか出勤す
ひとつずつものごとすすみ春の空
春の薔薇和食専門レストラン


響焔2000年6月号(No.384)

白灯集

見晴らしの良い席をとり二月尽
ブリオッシュ四個入り買い春夕べ
春の霜朝日に光り月曜日
キウイ切るなかなか抜けぬ春の風邪
いたちぐさ路面電車の線路伸び


響焔2000年7月号(No.385)

白灯集

春の河ゆっくり流れ大聖堂
床屋への予約を入れて並木の芽
万愚節真空パックの焼き魚
握手してグーテンターク木の芽晴
バリトンとパイプオルガン復活祭


響焔2000年8月号(No.386)

白灯集

パリ五月セイジ・オガワのコンサート
子と悩むこれからのこと子供の日
雷雨来るジャンヌダルクの前夜祭
サンマルタン運河女性の夏着かな


響焔2000年9月号(No.387)

特集/響焔400号前年祭・フランス・オルレアンの旅
               (文) 米田 透
              
 平成十ニ年五月二十日の夕刻、案内役の
筆者(オルレアン在住)は響焔の山崎主宰、
駒志津子さん、栗原節子さん、半沢つや子
さん、高際君子さん、伊関葉子さん、関花子
さんの計七名の皆さんをパリ・シャルルド
ゴール空港でお迎えした。まずパリに二泊
して主要な観光地を訪問し、その後オルレ
アンに移動して五泊、ロワールの城廻りや
ジアン等へも足を伸ばしかつ句会も開く、と
いう日程の旅が始まった。以下日記風に
報告する。

 〔一日目・パリ入り〕午後七時頃ノートルダ
ム大聖堂を見ながら、ホテル・ロワイヤル・
サンミッシェルにチェックイン。

 〔二日目・パリ観光〕オルセー美術館とオー
ランジュリー美術館に行ったが、いずれも閉
館だったので、チュルリー公園を歩いてルー
ヴル美術館に行った。旅行中傘が必要だっ
たのはこの時だけだった。ルーヴル美術館
ではモナリザとミロのヴィーナスをしっかり見
た。昼食は筆者が普段利用している「ひぐま
らーめん」の親子丼。ホテルに帰って昼寝の
後、凱旋門を訪問、シャンゼリゼ通りのサロ
ン・ド・テで紅茶とケーキを楽しんだ。夕食は
なりゆきでブリュッセル料理(ムール貝とポテ
トフライ)となった。

 〔三日目・パリからオルレアンに移動〕レア
ルのサン・テュスタッシュ教会を拝観。予定
していたポンピドーセンタは開館時刻が十
一時だと言われて入るのを断念し、デパー
トの「プランタン」を覗きに行った。喫茶店で
休憩。そこから歩いてオペラ座まで行き中
を見学した。天井に至るまで豪華絢爛で
あった。昼食は近くのブラッスリーで魚料理。
ホテルに戻ってからATSという長距離タク
シー会社の車二台を連ねてロワール河沿
いに立つオルレアンのメルキュール・ホテル
に向かった。以後長距離の移動はすべて
このATSを利用した。

 〔四日目・オルレアン〕オルレアンの花公
園散策後和食レストランの「ひかり」でゆっく
りと和昼食を楽しんだ。しかし、ここで皆さん
をピストン輸送していた筆者の自家用車の
クラッチが故障するというハプニングが起こ
り、レッカー車を呼ぶ始末になった。皆さん
全員を徒歩で筆者のアパートにご案内して
第一回目の袋回しを実施。また、インター
ネットの実演も少しお見せした。夕食は筆者
の台所で関花子さんがおにぎりと味噌汁を
作って下さった。

 〔五日目・城廻り〕ロワール河の下流の城廻
りにでかけた。ジャンヌダルクがシャルル七
世に兵をもらいに行ったことで有名なシノン
城見学。要塞型の城で眺望は抜群だった。
近くのカフェで昼食、シノンワインを飲んだ。
次のユッセ城は眠れる森の美女のモデルと
なった城である。三つ目の城は女の闘いの
城として有名なシュノンソー城で、シェール
川を跨いだ回廊が独特の美観を作ってい
る。夕食は「ひかり」で寿司を食べた。

 〔六日目・フランス料理〕午前中は休憩。昼
食は、花公園に水源を持つロワレ川沿いの
フランス料理レストラン「リヴァージュ」に皆
さん正装して行き、ソムリエの付く食事を楽
しんだ。第二回目の袋回しはホテルにて
実施。今回の旅行に参加できなかった田
中幹雄氏と米田規子はEメールやFAXで
計二回の袋回しに参加した。

 〔七日目・ジアン方面観光〕ロワール河の
上流のブリアールの運河橋に行った。運河
橋を歩いて渡った先で羊飼いの老人と犬が
数十頭の羊に草を食べさせていた光景は
印象的だった。ジアンの国際狩猟博物館の
見学、カフェでの昼食、ジアン焼の店での
買物、陶器博物館の見学をしてオルレアン
に戻った。夕食はオルレアンのスペイン料
理レストラン「ドンキホーテ」のパエリア。

 〔八日目・帰国〕ゆっくりとチェックアウト。
オルレアンの中心地の気楽なレストランで
昼食中、付近で火事があり梯子車がきた。
江戸っ子の半沢つや子さんはもちろん見
物に出ていかれた。市内見物と買物の後、
駒志津子さんのご発案によりオルレアン
のサント・クロワ大聖堂を全員で拝観した。
ジャンヌダルクの物語がステンドグラスに
なっている。午後四時にホテルを出発、
パリの空港のJALのカウンタに皆さんが
荷物を預け終わったところでお別れした。
長いようであっという間に過ぎた八日間だった。
 合計二十二の題で行った袋回しの成果の
中から各参加者の代表句を一句だけ紹介する。
 おおい雲鈴懸の実のおわりごろ    聰
 青嵐百フラン札折りたたみ    志津子
 ビーナスの白い風吹き夏帽子    節子
 麦は穂に黄色い小さな郵便車  つや子
 時速百キロまだ青い麦畑      君子
 青あらし旅先で読むEメール     葉子
 はつなつの空港に立ちボンジュール 花子
 デザートの大きなお皿聖五月    幹雄
 万緑や恋人たちのカフェテラス    規子
 天然の大河の流れ夏つばめ      透


不安なギア  米田 透

夏の雨凱旋門に慰霊の灯
オペラ座の大きな鏡夏帽子
フランスの大河の流れ夏つばめ
樹と水と鳥の公園ポピー咲き
万緑や不安なギアで客運び
薔薇の花眠れる森の美女の城
タピスリーの猟犬と馬夏館
夏のシャトー廻りてのちの和食かな
ロワールの橋の半ばで驟雨来て
雲の峰ジャンヌダルクの像碧く

白灯集

羊飼いの老人と犬谷若葉
夏日影眠れる森の美女の城
ジアン焼のミルク入れ買い夏の川
ゴルフ場のホテルのディナー夏めきて


響焔2000年10月号(No.388)

白灯集

雷雨来てのちパリからの列車来る
ジェット機の女性パイロット巴里祭
ジャンボ機が引き返して来てパリ大暑
たらこで御飯横浜の熱帯夜
地球半周畳の上でかき氷


響焔2000年11月号(No.389)

白灯集

早朝は自分の時間茄子の花
助手席にフランス青年今日の秋
仏訳の侍映画秋の午後
黒葡萄日本人ゆえ種を出し
処暑のオフィス日本男児とパリジェンヌ


響焔2000年12月号(No.390)

白灯集

いわし雲なすべきことをひとつずつ
フランスの紺の秋茄子味噌炒め
俊寛の結末を読む夜長かな
真っ青な秋空ピカソ彫刻展



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