米田規子 俳句集(2025年)
響焔2025年1月号掲載
主宰作品
ふゆざくら 米田 規子
視野に入る古木くろぐろ冬隣
ふゆざくら電車親しき街の音
考えるいちにち冬木の芽のしずく
チキンスープ温めなおし実南天
黄金のパイプオルガン冬三日月
暮早し光が走る大東京
ひらりはらり落葉と枯葉宮益坂
冬林檎なりたい私になるつもり
昼の灯や枯葉の街のルノアール
傷もあるピアノとわたし風花す
響焔2025年2月号掲載
主宰作品
花アロエ 米田 規子
紅葉かつ散り月餅を賜りぬ
母の忌や真青に茹でる大根葉
三人の都合が合わぬ花八ツ手
鬼の子とこたえの出ない問題と
食卓に資料と蜜柑さあどうする
楽園をもとめて尖る花アロエ
冬木立抜けしあわせは?むもの
湯豆腐を囲みほろほろと加齢
カレンダーにあふれる予定山眠る
一月や淡きひかりの朱塗椀
響焔2025年3月号掲載
主宰作品
寒 卵 米田 規子
抜け道の臘梅香る直売所
山笑う削ることばと足す言葉
味噌汁にポンと滋養の寒卵
平常心どこかに忘れ赤いマフラー
電子辞書閉じて開いて冬深む
しろじろと枯野の先の大病院
待春の手紙にそっと胸の内
坂道をすいすい漕いで春隣
春来る三枚重ねのパンケーキ
三寒四温ペン胼胝のいとおしく
響焔2025年4月号掲載
名誉主宰作品
春セーター 米田 規子
草萌のなまあたたかき人の群
春はまだ遠くてピアノ黒光り
冬すみれ初老と老人支え合い
ほつほつと息づき春の土ほろほろ
生き方を考えなおし梅三分
山笑う薬に支配される日々
まなうらに燃える此の世の春入日
晩節やひと山ふた山超えて春
再会のふわっと軽い春セーター
十七音の世界の未来ミモザ咲く
響焔2025年5月号掲載
名誉主宰作品
春 の 森 米田 規子
待つことたのし八重椿ぱっちりと
よろこびのふくらむときを囀れり
葱坊主こわばりやすき肩と首
切株の苔むしている春の雲
春の森から長身の老紳士
逢瀬のごと古木にひらく梅の花
ひそやかに菫がうたう縁切寺
北鎌倉の小さな駅舎春三月
子らの声散らばって消え春夕焼
じゅうぶんに花のいのちをさくら色
響焔2025年6月号掲載
名誉主宰作品
桜 餅 米田 規子
干して畳んで晩春のふくらんで
春菊やこの淋しさは何処から
詩を離れひと日降りつぐ花の雨
桜餅いくつになっても華やいで
散るさくらピアノの音色艶めいて
姉の背を越す勢いの春祭
筍の土の湿りごと抱き帰る
鬱々と目覚めいっせいに木の芽風
夏はじめ筋肉足りない左腕
ゴールデンウイーク定位置に塩・さとう