米田規子 俳句集(2023年)
 

響焔2023年1月号掲載

主宰作品

少し青    米田 規子

横浜やポンポンダリアの晴れの空
小春日のマスク外せぬ日本人
ラフランス熟して詩(うた)になるところ
鴉啼き立冬の空少し青
急坂やぎんなん降って風吹いて
夕空にうっすらと富士ふゆはじめ
小豆煮る遊びごころをかきまぜて
核心のわからずじまい冬林檎
熊手を高く下エスカレーター下りてくる
冬の星行きつくところ独りなり


米田規子 俳句集(2023年)
 

響焔2023年2月号掲載

主宰作品

ポインセチア    米田 規子

落葉踏むむかしのはなし美しく
あかるいほうへ大きく曲がり冬の川
渋柿の渋抜けるころ日本海
はじまりはスローバラード冬景色
冬のガーベラ精いっぱいのわたし
冬至南瓜こっくり煮えて母の笑み
背中押す見えない力冬木立
ポインセチア燃えほろ苦き帰り道
降誕祭むすこが作るビーフシチュー
愛がまだくすぶっている枯木山


響焔2023年3月号掲載

主宰作品

天 の 声    米田 規子

冬枯や朝の匂いの目玉焼
黙々とはたらく背中冬ぬくし
限りなく枡目を埋める冬の星
一月や日の温もりの大きな木
忙中の閑を探して冬木の芽
冬帽子風吹き止まぬ胸の中
悴めりスマホに時間奪われて
山眠る縷々と血脈うけつがれ
裸木のみな宙を指し天の声
好日やこんにゃくを煮て着ぶくれて


響焔2023年4月号掲載

主宰作品

雲湧いて    米田 規子

人の輪をいっとき離れ紅椿
寒禽の声とんがって検査の日
梅の香やきのうと違う雲湧いて
春の匂いきょうやわらかき空の青
抜かれゆく血のワイン色春寒し
薄氷や見えないものに目を凝らし
梅ひらき睫毛のながい男の子
はじめてのピアノのドレミ春の雲
ふくふくと茶葉のひろがり春彼岸
生も死も風にふるえてクロッカス


響焔2023年5月号掲載

主宰作品

何摑む    米田 規子

ともしびの遠くにひとつ二月尽
紅梅白梅ときめきが足りなくて
春雨やふっとひと息木曜日
スイートピーこれから叶うこといくつ
春の夢母とむすめとその娘
がたんごとんトトロの森へ春の月
三月のざわざわぐらり何摑む
永き日を行きて戻りぬ亀の首
落椿その後の彼女しあわせか
芽柳の風の曲線詩をつむぎ


響焔2023年6月号掲載

主宰作品

新  緑    米田 規子

つくしたんぽぽ旅という別世界
一行詩生まれ新緑にそよかぜ
母むすめほど良く離れクレマチス
花ふぶき悠々自適なんて嘘
ラベンダーと遊んだしっぽ猫帰宅
若楓はにかんで言う「ありがとう」
三どくだみの四五本抜いて旅の朝
見送りてもとのふたりに草若葉
悩ましい最後の五文字青嵐
花万朶その日うれいに支配され


響焔2023年7月号掲載

主宰作品

夏 燕    米田 規子

新しい楽譜を広げ夏燕
聖五月きのうの私消している
うっすらと鏡の汚れ走り梅雨
遠雷や絵画の青いヴァイオリン
波長合う人の隣にほたるの夜
ざわめきの残る胸底赤い薔薇
はたた神二十四時間使い切り
男の子にこにこ無口夏木立
万緑やことばいくつか見失う
ドラえもんのマンガ古びて夕焼雲


響焔2023年8月号掲載

主宰作品

明日葉    米田 規子

俤のあるにはありて梅雨の星
六月や鍋に小さな疵の増え
明日葉をパリッと揚げて健やかに
父の日の直立不動のちちであり
でで虫や朝からねむい日の手足
調律が終わりアガパンサスの昼
若返ることの叶わぬ更衣
夏草や紙と鉛筆無力なる
思い出の半分以上夏の海
夕空青く夏の匂いのバスタオル


響焔2023年9月号掲載

主宰作品

海 を 見 て   米田 規子

地下鉄の新しい街青ぶどう
黒南風やくねくね曲がる上り坂
カンナの黄の華やぐあたり睡魔くる
七月や自転車漕いで海を見て
細くほそく刻む甘藍背を丸め
パリー祭ピタピタ夜の化粧水
冷房の効いてぎくしゃくする二人
打水のあとの夕空深く吸う
ふるさとへ吾は旅人蟬時雨
四年目の半分が過ぎ緑陰に


響焔2023年10月号掲載

主宰作品

夕 焼 雲   米田 規子

朝のストレッチ蜘蛛の囲の光かな
ぐらぐらの湯にパスタ投入夏の空
こころざしまっすぐありて緋のダリア
煮炊きしていのちをつなぎ夕焼雲
夏菊の束のカラフル母恋し
吾をしのぐ草の勢い八月尽
暑気中り脳の怠慢ゆるしおく
俳人とやペン走ら せる音涼し
どかと残暑ポークソテーに黒胡椒
海は秋たった一人のはらからよ


響焔2023年11月号掲載

主宰作品

紅 林 檎   米田 規子

ブイヤベース夏の終わりの水平線
晩夏晩節ひたひたと波寄せて
藤の実を垂らして保育園の午後
雷鳴やピアノ弾く手を止められず
二百十日がんもどきに味浸みて
虫の闇すとんと深きねむりかな
祈ること安らぎに似て紅林檎
九月の影濃く群衆のうねりかな
一位の実青年サッと席ゆずる
細腕にてノコギリを引く文化の日


響焔2023年12月号掲載

主宰作品

渋谷まで   米田 規子

天の川着てゆく服が決まらない
ひんやりと喉すべる酒菊日和
種なしの柿やわらかく老いこわく
ミステリアスに装いて曼珠沙華
月光つめたく白磁のティーポット
明日を憂いて椿の実のごつごつ
個性派の冬瓜ダンディから遠く
おろおろと来て秋の蚊の殺気かな
泡立草わっさわっさと渋谷まで
背後から十一月の風の音


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