米田規子 俳句集(2021年)
 

響焔2021年1月号掲載

主宰作品

風に聞く    米田 規子

さわやかに会い信州の赤ワイン
ゆらゆらと過去のまぶしく紅葉川
恙なしことに日影の実千両
桜紅葉橋わたるときふと未来
チンゲンサイさくさく切って朝の冷
風に聞くこれからのこと木守柿
鍋と笊どちらも光り冬隣
冬灯しひとりの大工独りの音
望郷のその夜耿耿ずわい蟹
冬の日の十指すこやかリスト弾く


響焔2021年2月号掲載

主宰作品

ころがって    米田 規子

お日さまの匂いのタオル風邪心地
飛行機雲ほどけて淡く冬菜畑
出会いがしらの綿虫と三輪車
墓域明るく冬帽の婆三人
鍵盤をていねいに拭き冬の暮
揺れながらこころと体冬至粥
極月や一本道をころがって
選曲に迷いを残し大寒波
冬日燦一病ふっと貌を出し
ありったけの力を使い冬紅葉



響焔2021年3月号掲載

主宰作品

ひらいてとじて    米田 規子

もくれんの冬芽ふくらみ逢えぬ日々
トッカータとフーガ突き抜けて冬天
泥葱の束を抱えて風の道
ハッピーバースデイ冬の檸檬灯る
大声で笑うことなく雑煮椀
冬ざれや二人のベンチ探しいて
クレソンに水音やさし野辺の風
待春のひらいてとじて足の指
読みかけの本とコーヒー春の雪


響焔2021年4月号掲載

主宰作品

ダウンロード    米田 規子

カフェラテのハートのゆがみ雪催
ふらんすや冬三日月の舟揺れて
山眠る粒のきらきら山の塩
長葱の青い切っ先本気なり
待春のダウンロードする楽譜
片っ端から消えゆく時間山笑う
紅梅白梅詩を探す一人なり
白鍵にかすかなる罅風光る
余寒かな水晶体のおとろえも
ひとつ終わり一つ始める春の山


響焔2021年5月号掲載

主宰作品

ものの芽    米田 規子

スカートのパステルカラー風光る
ものの芽光り目標の八千歩
一輪車の子春風の先頭に
トンネルの先のくらがり梅香る
くるくると二月三月本の山
はくれんの散り際空の軋む音
春昼のグランドピアノ深眠り
三色のジュリアン咲いて子の便り
木の芽雨きのうの続き今日もする
おぼろ夜の会えば笑っておんなたち


響焔2021年6月号掲載

主宰作品

リラの冷え    米田 規子

はげましの声とも思い花菜風
考えるためにペン置き朧かな
もったいないような晴天蕗を煮る
マスクして桜いちばんきれいな日
ひと日籠もれば一つ年取り草の餅
漆黒のアボカドやわく菜種梅雨
リラの冷え人を想いて書く手紙
考える悩む竹の子茹でている
ゴールデンウィーク切手の青い鳥
濃厚なチーズケーキと若葉風


響焔2021年7月号掲載

主宰作品

夏  燕    米田 規子

囀りやからだを巡る朝の水
あっさりと予定の消ゆる春の雷
マスキングテープに木馬五月来る
青嵐抱えきれない本の嵩
創造は想像ももいろオキザリス
静寂に揺れるカーテン若葉寒
あのころのははのしあわせ花みかん
籠もり居のふくらむ時を夏燕
ひとりとは青葉若葉の風の音
開催は未定てんとう虫飛んだ


響焔2021年8月号掲載

主宰作品

旅 遥 か    米田 規子

木を伐って青空と雲夏はじめ
アップダウンいつもの小径海紅豆
小判草夕日の無人直売所
よろこんでくれる人いる桃熟れる
梅酒の琥珀雨音にねむる夜
旅遥かベルガモットの花に虻
つゆの晴れ奥に富山の置き薬
まず外す大きなマスク木下闇
これからも安全な距離冷奴
連弾の息を合わせてアガパンサス


響焔2021年9月号掲載

主宰作品

い っ し ん ふ ら ん    米田 規子

胸底に沈むポエムよ青山河
しんかんと卓の主役の梅雨鰯
六月の森の深さをベートーヴェン
おくれ毛のくるんと二歳麦の秋
きのう今日いっしんふらん雲の峰
短夜のははの指輪のキャッツアイ
七夕やおとこは睡りむさぼりて
陽は重くぼってり咲いて黄のカンナ
夕映えのステンドグラス揚羽蝶
八月や波打際をちちに蹤き


響焔2021年10月号掲載

主宰作品

朝 の 蟬    米田 規子

ポニーテールに大きなリボン夏休み
さりながら朝のルーティン青芒
雨のち炎暑もみほぐす足の裏
風従えて捕虫網の男の子
こころの襞に百日紅のきょうの色
冷蔵庫の開閉の数星の数
一人になりたい日ワシワシと朝の蟬
箸の色それぞれ違い盆の月
樹の幹の骨格あらわなる晩夏
コーヒーを淹れる三分秋のこえ


響焔2021年11月号掲載

主宰作品

あおい富士    米田 規子

無音なるゴンドラ光りつつ晩夏
五線紙に音符の階段いわし雲
足りない時間ふわふわと秋の蝶
ごま油香るプルコギ夜の秋
二百十日うずたかく本積まれゆき
椿の実豪雨の中を戻り来て
水飲んで台風一過あおい富士
その先のもやもや背高泡立草
パソコンの不機嫌なる日すいっちょん
越ゆるため山は聳えて柿の秋


響焔2021年12月号掲載

主宰作品

山粧う    米田 規子

体温計ピピピッ秋気澄みにけり
さみしさを束ねて真っ赤唐辛子
真実を見つめる勇気鵙猛る
マロングラッセむかしの恋の甘さかな
晩秋を大きく揺らしモノレール
竜淵に潜み医師の目わたしの目
同意書に名前を太く秋桜
肉じゃがの煮上がる匂い野分あと
一枚の壁に塞がれ鉦叩
甘んじてしばし休息山粧う


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